名古屋市中区錦3丁目の「栄広場」で計画されている「(仮称)錦三丁目25番街区計画」について事業者である三菱地所ら5社は2022年6月13日、同日に起工式を行い、7月1日に着工することを公表しました。
ホテルについては大方の予想通り米ヒルトンのラグジュアリーブランド「コンラッド・ホテル&リゾーツ」の進出が正式にアナウンスされたほか、シネコンゾーンに「TOHOシネマズ」が進出するとともに商業ゾーンには「パルコ」による高級商業施設が出店します。
三菱地所 プレスリリース 「(仮称)錦三丁目25番街区計画」着工
三菱地所 プレスリリース 名古屋・栄に「コンラッド名古屋」2026年開業予定
「(仮称)錦三丁目25番街区計画」の概要
あらためて栄広場で再開発が行われることになった経緯をふり返っておきましょう。
栄広場は都心の一等地にありながら再開発計画がまとまらず1970年ごろから暫定的な広場として用いられ、市民の憩いの場として親しまれてきました。
2013年に名古屋市が公表した「栄地区グランドビジョン ~さかえ魅力向上方針~」では、公有地を活用し栄地区の魅力向上を先導するための取り組みとして、栄広場において、商業・飲食・滞在・文化・学び・アミューズメントなどの魅力ある機能導入をすすめ、周辺道路、公園、地下街との一体性に配慮した、求心性・シンボル性のある再開発を先導的に推進することが示されていました。
この取り組みは2019年になってようやく動き出します。
同年1月に地権者である名古屋市と大丸松坂屋百貨店との間で開発推進に関する基本合意を締結、事業提案募集の結果、2020年3月に三菱地所を代表構成員とする企業グループが事業候補者として選定されました。
その後、同年7月には再開発事業に関する基本協定と土地売買契約が締結され、関係機関などとの協議を経て2021年9月に都市計画提案が提出されました。
「(仮称)錦三丁目25番街区計画」の事業主体は?
「(仮称)錦三丁目25番街区計画」の事業主体は三菱地所、パルコ、日本郵政不動産、明治安田生命保険、中日新聞社の5社です。
このうち、三菱地所が本事業計画の代表構成員で「コンラッド」進出のプレスリリースも同社とヒルトンの2社名で配信されています。
パルコは再開発街区のうち、旧SMBCパーク栄部分などの地権者であった大丸松坂屋百貨店から不動産事業の譲渡を受けています。また、再開発街区と大津通を挟んで西側に立地する商業施設「BINO栄」の開発を手掛けています。
日本郵政不動産は日本郵政の100%子会社で、親会社の日本郵政は名古屋では名工建設とともに名古屋駅前に「JPタワー名古屋(KITTE名古屋)」を所有しています。
明治安田生命保険は再開発街区と久屋大通を挟んだ東側に「明治安田生命名古屋ビル」を所有しています。同ビルは2014年にリニューアルはされているものの1973年に建てられた古いビルであることから将来的に建替えもあるのかもしれません。
上記4社が東京資本であるのに対し、中日新聞社は唯一の地元資本です。先行して建設が進む「中日ビル」の土地所有者でもあり、同社の100%子会社である中部日本ビルディングが建設主となっています。
なお、中日ビルの建替え計画では三菱地所がサポートに入っており、同社が運営する「ロイヤルパークホテルズ」が進出予定ですが、「コンラッド名古屋」との棲み分けは十分に考慮に入れられているものと思われます。
また、「(仮称)錦三丁目25番街区計画」の施工者は竹中工務店ですが、これも「中日ビル」と同じであり、そういった意味では両計画は密接な関係があるといえそうです。
「(仮称)錦三丁目25番街区計画」の立地は?
「(仮称)錦三丁目25番街区計画」の計画地は久屋大通・広小路通・錦通・大津通といういずれも名古屋を代表する4つの大通りに囲まれるこれ以上ない立地です。
また、地下鉄東山線・名城線の栄駅や地下街にも直結し、建物内に設置される複数のエスカレーター・エレベーターにより利用者が地下と地上とをバリアフリーで自由に行き来できる歩行空間となる計画です。
栄広場は最近になって行き場のない若者たちがたむろする「ドン横」として全国に名が轟いてしまいました。いいように解釈すると「トー横」(東京・新宿歌舞伎町)や「グリ下」(大阪・ミナミ道頓堀)に匹敵する繁華街の一等地ということができるのかもしれません。
ビルのフロア構成は?
ビルの権利関係は区分所有形態となり、低層部はパルコが所有し運営する高級商業施設、中・高層部は三菱地所・日本郵政不動産・明治安田生命保険・中日新聞社が共有し賃貸するシネマコンプレックス・オフィス・ホテルが配置されます。
地下2~4階には、パルコによる高級商業施設が設けられます。プレスリリースには「J.フロントリテイリンググループの既存施設である松坂屋名古屋店、名古屋 PARCO 等と相乗効果を図りながら、栄地区の魅力向上を目指します」とありますが、真向かいにある「BINO栄」との関係性も気になるところではあります。
5~9階には「TOHOシネマズ」が進出します。栄地区にシネマコンプレックスが設けられるのは初となります。愛知県内の「TOHOシネマズ」はイオンモールなど郊外型商業施設に入るものしかなく、同シネコンの都心部への進出も県内初となります。
商業施設とシネマコンプレックスの間となる低層部 4、5 階の屋上には、それぞれ商業施設、シネコンロビーと隣接する広場が設けられ、久屋大通公園の眺望などを楽しむことができるようになります。
オフィスゾーンは12~30階に設けられ、12階は3層吹き抜けのスカイロビーが、15~30階には基準階面積約1,600平方メートル(約480坪)、総貸付面積約25,000平方メートル(約7,500坪)のオフィスが整備されます。また、13、14階にはコワーキングスペースなども設けられます。
ホテルゾーンは米ヒルトンのラグジュアリーブランドである「コンラッド・ホテルズ&リゾーツ」が進出します。外資系ホテルチェーンの最上級ブランドが名古屋に進出するのは初となります。
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客室は31~41階に170室が設けられ、うちスイートルームは29室です。スタンダード客室でも面積が約50平方メートルと名古屋地区で最大級の広さとなります。
31階にレセプションロビーやオールデイダイニング、32階にスパ・プールとジム、40階にはルーフトップバーが設けられるとともに10階、11階には国際MICEに対応したボールルームや会議室等が設けられるフルサービスのラグジュアリーホテルとなり、愛知県と名古屋市が行う高級ホテル立地促進補助金の適用対象となる予定です。
環境や防災面にも配慮した最新の超高層ビルにふさわしいスペックに
環境面でも「名古屋市建築物環境配慮制度(CASBEE 名古屋)」Sランクの取得を目指すほか、緑化面積20%以上を確保し、久屋大通公園を始めとする周辺との調和を意識した緑化等が行われるともに万が一の災害時には帰宅困難者の受け入れが72時間行われるなど、最新鋭の超高層ビルにふさわしいスペックを備えた計画となっています。
また、本計画は国土交通大臣から優良な民間都市再生事業計画に認定されています。これにより金融支援や税制上の特例措置の支援が受けられます。
国土交通省報道発表資料 名古屋の玄関口にふさわしい魅力ある都心核を創る ~(仮称)錦三丁目25 番街区計画を国土交通大臣が認定~
「(仮称)錦三丁目25番街区計画」の概要は以下のとおりです。
所在地 | 名古屋市中区錦三丁目2501番1、2501番2、2514番 |
交通 | 地下鉄東山線・名城線「栄」駅直結 |
敷地面積 | 4,866.40㎡ |
延床面積 | 109,679.74㎡ |
階数・高さ | 地上41階、地下4階、塔屋1階・高さ211.7m |
構造 | 鉄骨造・鉄骨鉄筋コンクリート造 |
用途 | ホテル、オフィス、シネコン、商業、駐車場 |
事業者 | 三菱地所、パルコ、日本郵政不動産、明治安田生命保険、中日新聞社 |
設計 | 三菱地所設計、竹中工務店 |
監理 | 竹中工務店 |
コンストラクションマネジメント | 三菱地所設計 |
施工者 | 竹中工務店 |
新築工事着手 | 2022年7月1日 |
竣工 | 2026年3月(予定) |
開業 | 2026年夏ごろ(予定) |
計画地の南西側、すなわちスカイル付近からみた昼間時の外観イメージです。かなり細長くシュッとしたビルになりそうです。
計画地の南東側、すなわち久屋大通公園、現在のミツコシマエヒロバス付近からみた夜間時の外観イメージです。ビル上部の「CONRAD」のサインがかっこいいですね。
2020年代、栄の再開発が連鎖するフェーズへ!
2010年代、名駅エリアにおいて主として東京資本による集中的な投資が行われ国内でも有数の超高層ビル街が形成される一方、栄エリアの凋落ということがいわれたことがありました。
そういわれたことの理由として、名駅エリアは新幹線で東京や大阪と直結され、さらにはリニア中央新幹線開業を控え、今後ますますエリアのポテンシャル向上が期待される一方、栄エリアに投資を行うのは地元資本が主であり、東京資本からは見向きもされず、肝心の地元資本も栄エリアでの投資に対して慎重であった、ということがささやかれていたように思われます。
しかし、今回の「(仮称)錦三丁目25番街区計画」において東京資本が栄エリアで莫大な資本を投入することで明らかになったように、栄は凋落傾向にある投資不適格なエリアというイメージは払拭されたといっていいでしょう。
これは、久屋大通公園を擁する栄エリアの平面的な回遊性の高さがあらためて評価されたからだといってもよいかもしれません。
そして、2020年代の栄エリアは再開発が連鎖していくフェーズに入っているといっても過言ではない気がします。
まだ正式には明らかになっていないオリエンタルビルによる三越再開発、名古屋市教育館の跡地利用、久屋大通公園南エリアの活用策、興和によるマルエイガレリアや国際ホテル跡地の再開発、老朽化したスカイルの建替え、さらには松坂屋名古屋店の再開発など思い浮かぶだけでも潜在的な計画は数多く存在しています。
栄の将来像を方向づける計画が今後もどんどん明らかになることを期待したいと思います。
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