名古屋市中区の「栄広場」で予定されている再開発「(仮称)錦三丁目25番街区計画」について、ヒルトン系列の超高級ホテルである「コンラッド」が進出することが新聞などで報じられています。
さて、この「コンラッド」とはどのようなホテルなのでしょうか。名古屋には伏見に「ヒルトン」がありますが、どういった違いがあるのでしょう。また、名古屋を代表する外資系ホテルといえば名駅にある「名古屋マリオットアソシアホテル」ですが、これを凌駕するホテルになるのでしょうか。
「(仮称)錦三丁目25番街区計画」の概要
まずは、再開発計画の概要について見てみましょう。
現在の様子です。栄広場ではたまにライブなどのイベントが開催されることもありますが、普段はおじさんがハトに餌をやっていたりサラリーマンが休んでいたりと、都心にあってエアポケットのようなスポットになっています。
どんな建物が建築されるの?
再開発によって建てられる建物の概要は以下のとおりです。なお、当初高さが約200mとされていましたが、計画の変更により高さが約213mになったことにより延床面積なども変更になっています。
用途 | ホテル、オフィス、シアター、商業、駐車場等 |
敷地面積 | 4,866.40平方メートル |
建築面積 | 約4,600平方メートル(変更前 約4,300平方メートル) |
延床面積 | 約109,700平方メートル(変更前 約99,500平方メートル) |
容積対象面積 | 約99,600平方メートル |
容積率 | 約2,050%(変更前 約1,860%) |
階数 | 塔屋1階、地上41階 地下4階(変更前 地上36階 地下4階) |
高さ | 約213m(変更前 約200m) |
事業主体は? なぜ栄に?
「(仮称)錦三丁目25番街区計画」の再開発計画の事業者は三菱地所を代表構成員とし、日本郵政不動産、明治安田生命、中日新聞社を構成員とする連合体です。
2010年代に東京資本が主体となり名駅地区に集中的に資金を投下、同地区は国内でも有数の超高層ビル街に発展を遂げました。一方、栄地区はこの間、やや取り残された感がありました。しかし2020年代に入り、複数の再開発計画が始動、それも地元資本だけではなく東京資本が栄地区に目を向けたことが特筆すべき点といえるのではないでしょうか。
栄地区は、東京や大阪と新幹線でダイレクトに結ばれている名駅地区と比べると広域的なアクセスの利便性という点ではどうしても見劣りしてしまいます。一方、小売店舗の立地数は名駅地区を上回っていますし、何よりも都会のオアシス的な久屋大通公園を擁し、平面的かつ広域的な回遊性という名駅地区にはないポテンシャルを持っています。その栄地区にあって、ほぼ中心にある「栄広場」は、これ以上ない好立地であり、東京資本も食指を動かしたのかもしれません。
いつ完成するの?
現在のスケジュールでは、2022年に工事に着手、2026年に完成、供用開始の予定です。
コンラッドってどんなホテル?
次に再開発ビルに入るといわれている超高級ホテル「コンラッド」について見てみましょう。
ホテルの「格付け」について
まず、ホテルの「格付け」というものついて整理しておきましょう。実は、ホテルの「格付け」ですが、世界的に統一された基準があるわけではなく、格付けの基準は国によって異なりますし、日本国内でも旅行サイトやメディアなどが独自の基準を用いて評価しているに過ぎません。ただ、誰が見ても5つ星クラスであるといえるようなホテルが現在の名古屋にはないということもこれまた事実です。
外資系のホテルチェーンとブランドについて
外資系のホテルですが、様々なチェーンやブランドがあり違いがよくわからないという方も多いのではないでしょうか。そこで主な外資系ホテルチェーンとブランドについて見てみましょう。
マリオット・インターナショナル
マリオット・インターナショナルは米国メリーランド州に本部を置く、世界最大のホテルチェーンです。M&Aにも積極的で、2015年にはシェラトンなどを展開するスターウッド・ホテルズ&リゾーツ・ワールドワイドを買収しています。
上図はマリオット・インターナショナルの公式サイトにある各ブランドのセグメントです。
先ほど、ホテルの「格付け」について、統一的な基準はないということに触れましたが、マリオット・インターナショナルのセグメント上、最上級の「ラグジュアリー」が5つ星、「プレミアム」が4つ星に相当するものと思われます。
このセグメントによるとマリオットは「プレミアム」という区分で最上級の「ラグジュアリー」という区分でないことがわかります。名古屋駅にそびえ立ち名古屋を代表する外資系ホテルである「名古屋マリオットアソシアホテル」ですが、この区分でいくと4つ星相当であるといえます。5つ星相当である「ザ・リッツカールトン」や「セントレジス」など“ラグジュアリー”に区分されるホテルは名古屋には残念ながら未進出です。
なお、マリオットブランドとしては中価格帯の「コートヤード・バイ・マリオット名古屋」が2022年春、伏見エリアに開業予定です。
ヒルトン・ホテルズ&リゾーツ
ヒルトン・ホテルズ&リゾーツは米国バージニア州に本社を置き118の国・地域に6,200軒以上を展開する国際的なホテルチェーンです。
ヒルトン・ホテルズ&リゾーツの公式サイトにあるブランドの一覧です。マリオット・インターナショナルのようにセグメントで分けられていませんが、「ラグジュアリー」に区分されるのは「ウォルドルフアストリア」「LXR」「コンラッド」の3ブランドであると思われます。名古屋では、伏見地区に4つ星相当の「ヒルトン名古屋」が進出していますが、これに加えて名古屋初の5つ星クラスである「コンラッド」が進出します。現在、名古屋を代表する外資系ホテルである「名古屋マリオットアソシアホテル」が4つ星相当であることから、これを凌ぐラグジュアリーホテルが名古屋に進出するということになります。
アコーホテルズ
アコーホテルズという名称は日本ではあまり馴染がありませんが、フランスのパリ近郊に本社を置き、90か国以上で3,500軒以上を展開する国際的なホテルチェーンです。2016年には「フェアモント・ホテル」(プラザ合意で有名なニューヨークの「プラザホテル」などを運営)や「ラッフルズ・ホテル」を運営する「フェアモント・ラッフルズ・ホテルズ・インターナショナル」を傘下に収めています。
日本では中級ブランドとして、「メルキュール」や「イビス」などを運営しており、名古屋には「ザ サイプレス メルキュールホテル名古屋」(地元の醸造企業であるナカモがアコーホテルズとの提携により運営)や2020年11月にオープンした「イビススタイルズ名古屋」が進出しています。
ハイアットホテルアンドリゾーツ
ハイアットホテルアンドリゾーツは米国シカゴに拠点を置く国際的ホテルチェーンです。
日本国内でも東京や関西を中心に「ハイアットリージェンシー」や「パークハイアット」「グランドハイアット」などを展開しており名前をよく聞くホテルチェーンですが、現在、名古屋には系列ホテルはありません。上記「アコーホテルズ」で触れた「ザ サイプレス メルキュールホテル名古屋」はかつて「ホテルセンチュリーハイアット名古屋」という名称で小田急との提携により運営されていましたが、現在は提携が解消され、名古屋からは撤退しています。
インターコンチネンタルホテルズグループ
インターコンチネンタルホテルズグループはイギリスに本部を置く多国籍ホテルグループです。ブランドとしては、「インターコンチネンタル」や「ホリディ・イン」、「クラウンプラザ」などがあり、世界で5,900軒以上のホテルを運営、総部屋数では世界最多のホテル運営会社です。
日本ではインターコンチネンタルホテルズグループとANAホールディングスの合弁会社であるIHG・ANA・ホテルズグループジャパン合同会社が各ホテルを運営しており、名古屋では「ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋」をフランチャイズ契約で運営しているほか、2022年3月には名鉄が運営していた旧名鉄犬山ホテルが建替えられIHG・ANA・ホテルズグループジャパングループのブティックホテルである「インディゴ」にリブランドされ「ホテルインディゴ 犬山 有楽苑」として開業予定です。
国内にあるコンラッド
現在、コンラッドは日本国内では東京と大阪の2か所に進出しています。
コンラッド東京
コンラッド東京は、東京都港区東新橋にあり浜離宮恩賜庭園の借景と東京湾を望む都内屈指の眺望を誇る超高級ホテルです。2005年7月に開業、客室数は290室でスタンダードの客室でも48㎡を有します。
コンラッド大阪
コンラッド大阪は、大阪市北区のツインタワーである中之島フェスティバルタワーウエストの最高層階に入る超高級ホテルで2017年6月に開業、客室数は164室で客室面積はすべて50㎡以上です。
5つ星ホテルが進出したくなるような都市力の維持が必要
2019年に開催されたG20サミット首脳会議では、愛知県や福岡県も誘致を目指していましたが、ホテルの客指数や警備体制などに優る大阪市が選ばれました。これは、名古屋や福岡には各国の首脳クラスが宿泊する5つ星クラスのホテルが存在していないということも大きな理由になったものと思われます。それにしてもコロナ禍前は絶好調であったインバウンド需要という追い風もあり大阪における5つ星クラスのホテルの充実度は目を見張るものがあります。
5つ星クラスのホテルの初進出が5年後となる名古屋にとって大阪の背中は遠いものがありますが、それでもコンラッドの進出は名古屋の都市格の向上に資するものになると思われます。
幸いにして、栄地区では三越の建替え計画や興和が進める丸栄跡地などのツインタワー構想、名駅地区では延期となっているものの名鉄名古屋駅の再開発など5つ星クラスのホテルが進出する「ハコ」は複数想定することができます。
あとは、名古屋が、今後激変が予想される社会・経済情勢のなかにあっても現在のような都市力を維持していくことができれば第2、第3の5つ星ホテルの進出も望むことができるのではないでしょうか。