2022年3月29日、名古屋鉄道(名鉄)は、名古屋本線東岡崎駅の北口および南口を対象エリアとして一体的な再開発事業を行うことを公表しました。
この再開発事業により岡崎市の玄関口は、その都市格に見合った姿に生まれ変わることになりそうです。
現在の駅ビルは老朽化し、38万都市の玄関口としては…
岡崎市は、人口約38.5万人(令和2年国勢調査)で愛知県内では名古屋市、豊田市に次ぐ第3位、全国に62市ある中核市のひとつです。また、徳川家康の生誕地として全国的に知られるとともに名古屋めしになくてはならない八丁味噌の産地でもあります。
岡崎市内にはJR東海道本線、名鉄名古屋本線、愛知環状鉄道と3線の鉄道路線が通っていますが、JR岡崎駅はやや南の郊外に位置している一方、名鉄東岡崎駅は市役所などの行政機関や地元信用金庫の本店などがある中心市街地、岡崎城などの観光スポットに近いことから東岡崎駅が岡崎市の中心駅としての役割を担っています。
東岡崎駅の表口は市役所などに近く駅ビルがある北口になると思われます。しかし、この北口の駅ビル、1958年(昭和33年)に建てられた3階建ての老朽化した低層ビルで38万人の人口を擁する中核市の玄関口としては少し寂しい佇まいでした。
そういったことから再開発の機運が高まり、2021年11月に岡崎市と名鉄の間で、駅ビルの整備などについて基本協定を締結、今回の名鉄による再開発事業の正式発表に至りました。
再開発計画の概要
名鉄の公表資料によると再開発計画の方針は以下のとおりです。
北口 | ○第一種市街地再開発事業の施行を予定し、現在の駅ビル(岡ビル)の解体後、駅利用者および来街者をターゲットとした商業機能および、駅につながる利便性の高い事務所機能を有する複合施設を整備するほか、バスターミナルを再整備する事で交通結節点としての役割を強化する。 ○施設全体では、街周辺への回遊起点として観光ニーズにも対応した店舗や、バスターミナルでの乗換え時間等も有意義に過ごせるよう、すき間時間のニーズにも対応した店舗を配置する。さらに、イベント等多目的に活用できるスペースを一体的に整備する事により賑わいを創出する。 |
南口 | ○周辺居住者と駅利用者をターゲットとした施設として位置付け。 ○食品等物販店舗に加え、飲食、サービス等の用途を取り入れた生活利便性の向上に寄与する店舗を誘致し、周辺居住者にも選ばれる駅南口のシンボルとなるような施設を目指す。 ○岡崎市は徳川家康生誕の地としても知られており、市内には所縁の深い神社仏閣が多く、駅南口至近には徳川家康の産土神として有名な六所神社がある。こうした周辺施設との立地にも配慮し、動線計画を含めた施設計画を進める。 |
再開発計画の概要です。
北口 | 南口 | |
所在地 | 岡崎市明大寺町 4 丁目 70 他 | 岡崎市明大寺町字耳取 14-5 他 |
敷地面積 | 約 6,000 ㎡ | 約 1,200 ㎡ |
構造規模 | 鉄骨造地上 8 階 | 鉄骨造地上 3 階 |
延床面積 | 約 13,000 ㎡ | 約 3,000 ㎡ |
主要用途 | 商業、事務所、公益施設 | 商業 |
その他 | 第一種市街地再開発事業として施行予定 | - |
着工 | 2027 年度内 | 2022 年度内 |
竣工 | 2029 年度内 | 2023 年度内 |
パースを読み解くと…
公表されたパースを見てみましょう。
北口のパースです。岡崎市と同じく愛知県内の38万都市で、2021年に中核市の仲間入りをした一宮市のJR尾張一宮駅にある「iビル」を彷彿とさせる気もします。ただ、東岡崎のほうは駅前のスペースが狭いため、地上部分の一部がピロティのようになっており、そこにバスターミナルが設けられます。
南口のパースです。北口のビルと統一感があります。こちらは2022年度内の着工、2023年度内の竣工と2029年度内竣工予定の北口と比べると大幅に早く完成します。パース右側の真ん中あたりに名鉄電車と思われる赤い線のようなものが描いてあります。線路を跨ぐ形で全体が橋上駅舎となることがわかります。
現地の様子(2022年4月)
北口の駅ビル「岡ビル」です。見る人によっては昭和レトロ感満載で味があるともいえますが、やはり38万都市の駅ビルとしては物足りません。
岡ビルの正面からの様子です。「岡ビル百貨店」という鄙びた商業施設も入居していましたが、2021年に惜しまれつつ閉店しました。
一世を風靡するユーチューバー「東海オンエア」も岡崎が本拠地です。今や家康やオカザえもんと並ぶ岡崎の「顔」かもしれません。
北口のバス乗り場です。手狭なため、バスが発車する際はバックしなければならず、あまり効率的ではありません。
南口の様子です。南口には「名鉄セントラルフィットネスクラブ岡崎」がありましたが、解体工事が進められています。ここに商業施設をメインとする鉄骨造3階建ての再開発ビルが建てられます。
再び線路の反対側に戻ります。2013年に完成した東口橋上改札と2019年に供用開始されたペデストリアンデッキがあります。
ペデストリアンデッキの先には2019年に開業したホテルや飲食店などで構成される複合商業施設「オト リバーサイドテラス」があります。
ペデストリアンデッキ上には立派な家康像もあります。2023年には家康を主人公とするNHK大河ドラマ「どうする家康」(主演:松本潤)が放映されます。あらためて岡崎が注目を浴びることになりそうです。
東岡崎駅から少し北に歩くと乙川の河岸に出ます。取材に訪れた日はちょうど桜が満開の時期でちょっとした花見気分を味わえました。市街地の中心部を河川がゆったり流れるという稀有な都市景観を有しているのも岡崎の特長です。
コンセプトは「SWING HIGAOKA」~躍動的な再開発を期待
今回の再開発のコンセプトは「SWING HIGAOKA(スイング ヒガオカ)」です。
SWINGはジャズ用語でジャズ特有の躍動的なリズム感やそのリズムに乗ることを表します。岡崎市はジャズに関する貴重な資料が所蔵されていたり、国内有数のジャズイベントが開催されたりするなど「ジャズの街」として知られることから取り入れられたコンセプトです。
全体の完成は2029年度中とまだまだ先ですが、38万都市の玄関口にふさわしい躍動的な再開発を期待したいと思います。